神奈川県小田原市にある、相模湾を一望する片浦エリア。柑橘畑に囲まれた古民家をお借りして、2018年にオープンしました。
この場所はかつて、豊臣秀吉が千利休に命じて茶室「天正庵」を作らせたという由緒ある土地で、当時のように人と人が繋がる場所にできたらと思っています。
Q. いつからどんなきっかけでパンの道に進まれたのですか?
私はもともとは和菓子職人として修業をしていました。3年ほど経ったころに、他のお店も見てみたいと思い、後先考えずに退職。小規模の和菓子屋さんを探すも、家族経営が多い業界なので、なかなか雇ってくれる場所が見つかりませんでした。
そこで、和菓子の経験が少しでも活かせる仕事は無いかと、行きついた先がパン屋の求人。そこからパン漬けの日々が始まるかと思いきや、2年目から社内のケーキ部門に応援で参加することに。結局3年間、ケーキ漬け、時々パン、の日々が過ぎ、どれも楽しく良い経験でしたが、改めて一生の仕事とするならどれにするか考え、パンを選びました。
Q. パンづくりの魅力、パンづくりのこだわりを教えてください。
日々違う。これに付きます。
同じレシピで同じ人が作っても、違うパンが出来上がる。もちろん、この誤差をできる限り少なくする技術を学ぶことが基礎として重要であり、修行をするわけですが、日々変化することこそ本来のパンの姿であるとの思いから、あえてランダム性を持たせるようなパン作りをしています。
お店のコンセプトとして「飽きにくい」を掲げています。このコンセプトがなかなか難しいのですが、私の中には明確な基準があり、「こたつのみかん」。あの、当たり前に生活の中にあって、高級フルーツのようにパンチがあるわけでもない、でも食べた後にもう1つ食べたくなる…そんな究極的な普通をイメージしながら、パン作りをしています。
Q. おすすめのパンやご自身が好きなパンを教えてください。
お店のパンは、全て「私が食べたいかどうか」を大前提として作っています。なので、全部おすすめです!全部好きです!!
と言いたいところですが、その中でも一番のおすすめは「バターロール」です。これは私の名刺代わりといっても過言ではないパンです。
自家栽培、自家製粉した「きんたろう小麦」を使用し、この小麦を引き立てるために合わせる小麦は北海道産のキタノカオリ、喜界島の粗製糖、シママースと丹那牛乳のバターといった最低限の材料で仕上げた一品です。ぜひ小麦の香りをお楽しみください。
Q. お店の所在地について、その場所を選んだ理由は何ですか?その場所のどこが好きですか?
お店は、神奈川県小田原市江之浦にあります。鰤漁や柑橘栽培で栄えたこのエリアは、今では空き家の目立つ過疎地域。私はあるきっかけで、このエリアの地域復興をするグループと出会い、その中で「空き家バンク」という活動を知りました。グループと活動していく中で、この江之浦に住みたいと思うようになり、空き家を何件か見せてもらいました。
その中で出会った、一軒の古民家。石の門柱、屋根より高い大きな椿、昔は援農でたくさんの人が泊まっていた名残のある広い縁側。少し歩けば相模湾を見下ろす絶景。もう一目ぼれしないわけないですよね。自宅探しはその瞬間、お店の物件探しへと大きく舵が切られました。
Q. 今回「毎月PANDA!」に参加された決め手は何ですか?
普段は聞く前にお断りをしているのですが、神戸屋の方とご縁があったこともあり、お話しだけならと伺うことにしました。
お店はわざわざ来てもらうような立地のため、通販は事業としてはメリットがあるのですが、まちのパン屋さんという言葉があるように、その地域に住んでいるから・行ったからこそ食べられるパン、お店というものに価値を持たせたい、という想いがありました。今回、特定のお店のパンが買えるシステムではなく、何が届くかは来てのお楽しみという形だったので、それはおもしろいと思い参加いたしました。